拙者の写真修行小屋

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2018年 02月 06日

須賀利の思い出 ~三重県尾鷲市須賀利町~









大王町を訪れた後、尾鷲の北、紀北町に宿泊した

同じ紀伊半島でも、伊勢・志摩・鳥羽などに比べると観光資源に乏しい町だが

もう一か所、熊野灘でどうしても巡っておきたい場所があったからだ

3泊4日の駆け足旅行の中、貴重な1泊を、私の我儘に費やしてくれたカミさんには密かに感謝している








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須賀利町
尾鷲の北方・紀北町にあるハイコストパフォーマンス宿・「民宿あづま」から
熊野灘の海岸に沿って南に進むこと30分の場所にある漁村である








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人口は250人ほどで、「町」というよりは「集落」といった印象だ
かつては須賀利村という独立村であったが、昭和中期の市町村合併で、尾鷲市に吸収された
だから、現在の地名は「尾鷲市須賀利町」なのだが
面白いことに、尾鷲市街地からは、一度紀北町に入ってからでないとたどり着けない
つまり、須賀利は尾鷲の「飛び地」といういうことになる
紀伊半島の飛び地は、この須賀利の他に
和歌山県に属しながら三重と奈良の県境に染み出したように位置する「北山村」が有名である
昔は、尾鷲~須賀利間の往来手段は巡航船のみであったため、まさしく「飛び地」であったのだが
道路の開通により容易に往来が可能となった
そして現在
利益が見込めなくなった巡航船が、平成に入り廃止となったことで
須賀利は尾鷲市よりもむしろ紀北町の生活圏に飲み込まれ
飛び地の色合いを、以前とは別の形で濃くしている








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地形は、東側の「須賀利湾」に向かって駆け下るような斜面で、街のいたる所に階段があり
そして、いたる所でつづら折れている








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その迷路のようなつづら折りを歩いていると、こんな風に、魚拓の様な手形をそこかしこに見かける
米寿の祝いを迎えた時に手形を押し、玄関先などに掲示するという、尾鷲独特の風習なのだそうだが
この須賀利では特に顕著に受け継がれているのだという
昔は米寿と言えば大変な長寿であったろうから
この手形のある家は「長老が住む家」として村の衆に崇められたに違いないが
現代では、この手形が無い家を探す方が難しいくらいに有り触れており
街の景観を成す一種の「紋様」にさえなっているという印象である
言い方を変えると、須賀利は著しい高齢化を迎えた漁村、ということになる




この漁村も、大王町に負けぬくらいに海辺の街の憧憬を集めており
カメラマンであれば一日中歩き回っても飽き足らないほどの魅力をたたえているのだが
以上の写真は、実は忘れ物(恥ずかしながら、三脚)を取りに再訪した時に駆け足で撮影したもので
記事タイトルにうたった「思い出」については、以下でお見せしたい

相変わらず冗長な記事となりますが、どうか、最後までお付き合いを頂けたら幸いです








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同じ日の、午前5時30分
須賀利漁港
街路灯の袂に、白煙を上げる、小さな火を見つける







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信州から見れば尾鷲は南国であるが、さすがに朝は冷え込む
暖を取っていると、女性が4人集まってきて
白レンズを装着した仰々しいフルサイズ一眼レフを首から下げた私を怪訝そうな眼差しで見つめ
やや間があった後、ぎこちない挨拶が交わされた








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おはようございます。今は何の魚がとれるんですか?
伊勢海老だよ。10月から始まってるんだけど、今は真冬で海老も動かないから、あまりとれないけどね








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ほら、船が帰って来たでしょう
定置網を仕掛けていたのを、朝早く出て行った船が引き上げてくるんだよ
へぇ~須賀利は伊勢海老漁が盛んなんですね
昔はね。今は、この船も合わせて3隻が漁に出るだけ。船は沢山あるのにね
漁師もどんどん年寄りになっちゃってるから、私らは「期待の新人」みたいなものだよ








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うわ~!デカいですね~!!
なに、こんなのはまだ小ぶりな方だよ








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ほら、兄さん、これ、カゴに入れといてよ(笑)

ファインダー越しに巨大な伊勢海老を手渡される
驚いて、思わずピントを外した
カメラから目を離すと、パッと視界が開ける
何しろ目の前は海なので、暴れて逃げられては大変だ
両手でしっかりと胴体を持った
生きている伊勢海老を手づかみしたのは生まれて初めてだった
大きな体で、おっかなびっくり伊勢海老を運ぶ私を見て、熊野灘の乙女たちが微笑んでいた
伊勢海老は、私の手の中からそんな光景を見て、ギィギィ・・・という奇妙な鳴き声を上げて、長いひげを動かしており
観念したのか、思いのほかおとなしかった

漁の邪魔になってはいけないと思い、最初は70-200のズームで撮影していたのだが
この雰囲気は、他人行儀な遠距離写撃ではなく、24-70で「入っていくべき」だと感じた
また、望遠だと距離をとりすぎて海に落ちそうだった、というのもある








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ねぇ、この兄さん、長野から来たんだってよ~
写真の撮影だって








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なにぃ?撮影か~
「老婆の休日」ってか?(笑)
いえ、皆さん「期待の新人」だっておっしゃってますよ(笑笑)








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間もなく、2隻目も帰ってきた








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海老を網から外す作業と、網を整えたたむ作業とが、同時進行する
一切淀みが無く
あやとりの達人の指先のように
アコーディオン奏者が蛇腹を操作するように
淡々と、海老を開放した網がたたまれてゆく








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ところで、シャッターを切りながら気になって仕方が無かったのが、この光景である








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ジャンボサイズのサザエが湯気を拭いている
海水が沸騰する薫りが実に香しい
生唾がしきりに出てきて、飲み込むのが忙しい
いやがおうにも期待が高まり、『これ、どうするんですか?』とたずねたい気持ちをグッとこらえる







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ハイ、どうぞ

キター!

一生懸命に遠慮する風を装いながら、1匹目にフォークを突き刺す







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わずかな抵抗の後、つるりっ、と、スプリングのように飛び出す身
海の幸をたらふく平らげている内蔵の緑色が、翡翠のように美しい
そして、尋常ではなく、デカい。こんなの見たことない
どうやって食していいのかわからず、カメラを首からぶら下げたまま上を向き
巨大なとぐろ状のそれを口の上に持ってくる
仰ぎ見た須賀利の空に、サザエの湯気が昇ってゆく
塩水が数滴、口の中に垂れた
ほんのりとした油気に、海水のえぐみがブレンドされている
滴る液だけでこんなに美味いのだから、身は一体全体どれほどであろうか

意を決して口中にとぐろを送り込む
窒息してしまうんじゃないかと思うほどデカい
内蔵が含む海藻の薫りが、喉を逆流して鼻腔に流れ込み、貯留する
噛みしめる
噛圧を押し返してくるような、得も言われぬ歯ごたえ
こんな感動は、何年か前に行った香川県で、製麺所の讃岐うどんを食して以来である
染み出る肉汁が、内臓の薫りと混じり合う
人類の英知をいかに結集しようとも決して及ばないような、神の配合である

そんなサザエを、なんと5個も頂いてしまった








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モグモグ・・・
美味い・・・こんな美味いサザエ、食ったことない・・・美味くて泣きそうになったのは初めて
そうでしょう~?やっぱり山のものより海のものの方が美味いよね?
反論の余地など、あろうはずがない









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兄さん、ホントいい時に来たね~








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幸せをかみしめていた、まさにその矢先のことである








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・・・・・!!?








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焼けたら声かけてやるから、待っててね

注)なお、これで一人前の模様

おぉ・・・なんたる絶景・・・熊野灘、バンザイ!

写欲が食欲に完全敗北した瞬間である

あと、お宿で私の帰りを待っているカミさんと子供のことが、ちょっと頭をよぎったりもした








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ウニは、漁師さんから名前をお聞きするのを忘れたが
後で調べてみたところ、おそらく
シラヒゲウニ(もしくはその近縁種)
だと思われる








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殻を割ってみると、卵は一般的なイメージと比べて、やや白味がかっている
味も薄いのか、と思いながら、フォークで卵をほじくり出して食してみると
淡泊な色合いからは想像できないほど濃厚で、そして、何よりクリーミーである

ウニと言えば、その保存の難しさから、流通の過程で「ミョウバン」が添加される事が多い
私が住んでいる海無し県・長野では、おそらくほとんどが添加後のものであろう
だから、信州人はミョウバンのほんのりとした「えぐみ」をウニの味として認識しているはずである
しかし、仮に海辺の土地で、産地直送をうたうミョウバン無添加のものを食すとしても
当然腐食はしないだろうが、粒の質感の劣化等、何らかの変性は免れない
つまり、物理的に、私がこの時食したもの以上に新鮮なウニというのは、ほとんどあり得ないのである

よく、薪やガス釜で炊いた米を「粒が立っている」と表現するが
このウニの食感がまさにそれで、ツブツブザラザラとした舌触りを思う存分楽しみ
しかし若干の名残り惜しさを感じながら、上顎と舌で挟み、粒をつぶすのであるが
ミニマムサイズの温泉卵を何百・何千個も同時に口に含んだかのように
トロトロフワリ、と、油と磯の香りが漏れ出すのであった
「舌」という器官には、薫りを知覚する機能もあることを実感したような気さえした


このままでは「拙者の写真修行小屋」はフォトブログではなく食レポブログになってしまう








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8時半にはお宿に帰らなければならない
時間が迫っていた







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ねぇ兄さん、撮った写真はどうするの?コンテストに出すの?
いえ、コンテストには出しませんけど、ブログっていう、インターネットの日記みたいのに載せたいと思ってます
えぇ~!じゃぁ私らこんな小さな漁港から一気に全国区デビューだね!
でも、私のブログを見てくれた人が、伊勢海老やウニが食べれると思ってここに来るかもしれませんね(笑)
そりゃ困るな~
今度おじゃまするときは長野のお土産、持ってきますね
いいよいいよ、こんなところで良かったら、いつでもまたおいでね。この街が好きだなんて言ってもらえると嬉しいから







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拝啓、須賀利漁港の皆様

美しい須賀利湾が見える家で、私の思い出をご覧になっていてくれていますか

私は、まだまだ拙いカメラマンだけど、「人」を撮るのが好きです

なかでも、「笑顔」を撮るのが好きです

ファインダーの四角い視界に、パッと笑顔の花が咲く瞬間が、とてもとても好きなのです

その花を見て、もらい笑いをして、ちょっと恥ずかしくなる時の自分が好きなのです

人見知りで、どうしようもなく口下手な私に、こんなにあたたかく接してくれて、ありがとうございました

カメラマンとして、生涯忘れられない思い出になりました



さようなら、熊野灘

またこの海に逢いに行きたい









須賀利の思い出


~ 完 ~




















































































































by kobatetuapril | 2018-02-06 22:20 | 風土 | Comments(3)
Commented by tad64 at 2018-02-07 10:47
素晴らしい体険をされましたね。そして人情までも・・・
奥様に感謝しなきゃ♪
Commented by mon21mon at 2018-02-07 21:20
海の幸、うまそうです!
kobatetuaprilさんは、感じたままを素直に写真に表現できるのだなーと思っていましたが、人の中にスーッと入っていけるのですね。
羨ましいです。
Commented by kobatetuapril at 2018-02-22 22:23
tad64さん、mon21monさん
お礼のコメントがとっても遅くなってしまい、すみませんでした。
ぶつくさ言いながらも須賀利の近くに宿をとることに決裁を下さったカミさんには感謝感謝です。
写真を見せたら、「どうしてお土産持って来てくれなかったの!」って怒られましたけどね(笑)
私は、本文中にも書きましたが、いい歳こいてホントにホントにどうしようもない人見知りなのですが、
須賀利の皆さんはそんな私にもすごくフレンドリーに接してくださいました。
人を撮っていると、素敵な表情に反応してシャッターを切れたことなんかにも感動しますが、
モデルさんに「助けてもらえてるんだな」って感じることが時々あって、それがたまらなく
カメラマンとして至上の幸せだと感じます。だから、人を撮ることが好きなんです。
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