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拙者の写真修行小屋

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2019年 04月 17日

春はシベリアより来ぬ~松本市中央図書館の「魯桃桜」~







3月24日


早春
松本市中央図書館の庭に咲く桜を、毎年気にかけている




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魯桃桜

春先に地元新聞を注意深く眺めていると、片隅に、この桜の動向を示す記事が見つかる
その小さな記事を見つけるために
常に無く念入りに新聞を、そわそわとしながらめくるのが、早春のルーチンとなっている





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桜、と言ったが、実は『魯桃桜』はサクラ属ではない
真ん中の文字通り、桃の一種である
では、『魯』とは何なのか?というと、産まれ故郷を示す文字だという
「魯迅」、春秋戦国時代の「魯国」。直感的に思い浮かべるとおり、中国産との説もあるが
ロシアの「ロ」であることが有力らしい
何故「露西亜」なのに「魯」なのか?さては、誤字がそのまま定着したのか?と推測してみたのだが
期待したような面白い紆余があるわけではなく
明治以前は「魯西亜」という表記は標準的であったらしい






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昭和初期、この、図鑑にも載っていない桜の生い立ちを研究した学者がいた
「どうやら、日露戦争の凱旋記念に軍人が持ち帰ったものらしい」
一応の結論を見た
しかしそれは学術根拠にのっとった「解明」の域に達するものでは到底無く
「そういう言い伝えがある」という逸話が浮上した程度であったそうだ






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ただ、桜ではなく桃の一種であることは当時としても分かっていたらしい
「魯西亜桃」ではなく、あえて「桜」と名付けたことに、この学者の詩情を感じる






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軍人の手により海を渡った魯桃桜は、最初、長野県の佐久市に植えられた
長野県が、魯桃桜の日本における故郷だということになる
少し誇らしく感じ、その後の国内移植を調べたことがあるのだが
どう調べても長野県関連の記事でしかその名を見つけることが出来なかった






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魯桃桜は、佐久市に移植された後、種子から芽生えた苗により、昭和初期頃から主に県内各地の図書館や博物館の庭に広まっていった
松本市中央図書館の木も、それら子孫の一人である
しかし何故か、そこで桜の旅物語は、プツリと途絶えてしまう






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信州の春は「春は名のみの風の寒さや」と早春賦に唄われるとおり遅いが
シベリア産まれのこの桜は、梅の開花から間もなく、ソメイヨシノの蕾の硬いうちから咲き始める
東京の桜便りよりも一足早い
そのため魯桃桜は、信州の春告げ花として、そのミステリアスな由来と共に密かな知名を得ている
季節感さえも数値化されてしまったかのような今の時代に、シベリアの凍土を知る桜の子孫が、信州の遅い春を告げ
豪勢なソメイヨシノたちの露を払うようにして、ほとんど人知れずに、散ってゆく
なんとロマンチックなことだろう
そう思うと、信州が魯桃桜の旅の果てであったのだろうと運命的なものを感じる





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北には一面鏡窓の図書館、西にはカビの生えた屋根付きの自転車置き場
南には名も取柄もない小川と駐車場、東には住宅街・・・・
実にカメラマン泣かせなロケーションであるが、先述したとおり、図書館の庭に植わっていることが由緒の正しさでもある






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駐車場の向こうにはフランス人神父がデザインした「旧司祭館」と和洋混淆の「旧開智学校」(共に明治時代の建造物)
が並び建っており、日露戦争の凱旋樹である魯桃桜を取り巻く歴史のトライアングルが形成されている
国宝松本城のひざ元にありながら、ここには、欧州への憧れが凝縮されている






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日曜日の図書館に訪れる人の何人かが、神妙な面持ちで一眼レフを構える私と魯桃桜とに交互に視線を送り
「え?これ、桜?もう咲いてるんですか?」
と声をかけてくる






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「いえ、桃ですよ、『魯桃桜』って書いてあるでしょ、ホントは桃なんです」
とは答えない
「松本で一番早く咲く桜ですよ」
と、軽いウソをつくようにしている
「へぇ~・・・知らなかった・・・」
自転車置き場のカビが生えたタキロン屋根越しに眩しそうに花を見つめる表情の
驚きと、いち早い春を見つけて得意気な様子が、なんとなく好きである
この表所を見ると、「春だな」と思う






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そういえば、この日はエプロン姿の女性司書さんも通りがかって、こう言った
「今年もキレイに咲きましたよね。ありがとうございます」






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ハッとして
「好きなんですよ、この桜、私。ついつい、なんだかんだで、毎年」
見透かされたウソを、ちょっと意地になりながら、しどろもどろのあやしい文法でつき通した
シベリアの陽光がうららかであった







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春はシベリアより来ぬ



~ 完 ~









# by kobatetuapril | 2019-04-17 23:55 | 風景・スナップ | Comments(1)