木曽平沢
重要伝統的建造物群保存地区にして、伝統工芸・木曽漆器の総本山である
その、一工房にて
室内には、FMラジオが流れている
「オシャレな工房ですね」
「明かりをつけると、ラジオも自動でつくようになっているんだよ」
「今日はジャズが流れているね」
60年を上回る歳月繰り返されて来た作業
皹の様な年輪が刻まれた爪
その皹に、漆の色素が浸透している
壮絶な手に、憧憬を覚える
塗りをしている旦那さんの目は
いくらカメラをローアングルに構えても閉じているように見えた
立ち上がったり、顔を上げたりするときはしっかりと開いているので
おそらく、塗りをするとき独特の表情なのであろう
カメラマンにとって「瞳」は重要な要素である
被写体の意識の行方を見る側に伝えるものだから、であり
だからこそ、人物カメラマンは瞳を追いかけるのである
塗りをしているときの旦那さんに瞳は
まぶたが降り、閉じているように見える
彼はそのようにして、60余年もの間
「漆黒」と言われる色と輝きの質を見極めてきた